歯内療法におけるコロナ対応について(当会メンバーによるまとめ)

2020年4月13日作成

 

1.      現在、不要不急の歯科治療は行わないように各種団体などから勧告されています。しかし武漢からの報告にあるように、「外出制限がかかると外傷の発生が減少するため、歯科の救急外来を受診する患者の約半数を歯内治療が占める」ようになったそうです。公衆衛生上の緊急事態下でも歯内療法のニーズがあることを示しています。

 

Jingjing Yu, et al. Characteristics of Endodontic Emergencies during COVID-19 Outbreak

in Wuhan. J Endod. 202046(6).

https://www.aae.org/specialty/clinical-resources/characteristics-of-endodontic-emergencies-during-covid-19-outbreak-in-wuhan/

 

2.      このような状況において、歯内療法的にはどのように対応すればよいのか、まとめてみました。原則としては以下の二つ(ア、イ)は我が国における公的な指針なので、これらに従ったうえでの対策を考えてみました。

(ア)  厚生労働省からの通達に従い、標準予防策、および歯科診療実施について留意すること

https://www.jda.or.jp/dentist/coronavirus/doc/20200407-01.pdf#search=%27%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81+%E6%AD%AF%E7%A7%91+%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%27

 

(イ)  歯科医学会連合からの「新診療における留意点」を参考にすること

http://www.nsigr.or.jp/coronavirus_dentists.html

 

3.      医院の診療体制について

(ア)  大前提として、以下に記載したことの実施はすべての歯科医院に要請しません。無理に実施するよりは自院では対応できないと丁寧に説明するか、適切な専門医院に紹介するべきです。無理に実施することのリスクを十分に理解してください。

(イ)  高齢者、慢性疾患の患者はハイリスクに該当するので、診療すべきかどうか、十分に検討する。必要に応じて専門院に依頼するか、治療を延期する。

(ウ)  患者が同時に待合室で同席しないようにする。診療時間も余裕をもって設定する。できれば一時間に一人、など

(エ)  待合室の雑誌、読み物、おもちゃなどは撤去する

(オ)  次患者の来院前に、前患者のふれた可能性のあるドアノブ、椅子、などをアルコール清拭する

(カ)  院内で患者が使いまわして触れるものを極力減らす

      問診表をかいてもらうバインダー(受付で立って書いてもらう)

      レントゲンのエプロン(通常は被爆のリスクはほとんどないので使用しない)。ただし、妊娠の可能性がある場合を除く

(キ)  窓を開けるなどして換気に努める

(ク)  可能なら受付に透明ビニールなどでシールドを設置する

(ケ)  感染が疑われない患者であっても、感染しているものとして対応する

      標準予防策を実施していれば問題ないはずである

(コ)  診療体制を整えられない場合は、当面の休診を検討する

 

4.      スタッフの診療体制

(ア)  歯科医師はサージカルガウン、キャップ、フェイスガードを着用する

(イ)  可能ならばN95のマスクを着用する

(ウ)  助手・衛生士が診療介助に入るときには歯科医師に準じた着衣とする

(エ)  診療介助時に着衣を用意できない場合は、介助せず、歯科医師は一人で診療する

(オ)  受付での対応はマスク着用の上、普段通りでよいが、患者とは1m以上離れて接遇する。受付もゴーグルやフェイスガードをすべきである。

(カ)  金銭授受はしない方が望ましいが、した場合は直後に必ず手を洗う

 

5.      患者さんから電話連絡がきたとき

(ア)  電話口で歯がどのような状況か聞く

(イ)  受診した方がよさそうな場合は来院を指示する

(ウ)  発熱、倦怠感など、新型コロナ感染症を疑うような症状があることが分かった場合は、歯科受診の前に帰国者・接触者相談センターへの連絡を促す

(エ)  来院時にはマスク着用を要請する

(オ)  患者に同伴者がいるかどうかを確認する

(カ)  同伴者がいる場合は患者と同様に対応するので、マスク装着を要請する

 

6.      患者さんが来院したときの受付対応

(ア)  スタッフはフェイスガードを使用する

(イ)  新型コロナ専用の問診表(下記)を書いてもらう。再診の患者にも毎回書いてもらう

(ウ)  同伴者がいる場合は同伴者にも問診票を書いてもらう

(エ)  問診票記載に使用したペンも直ちに消毒する

(オ)  非接触体温計で検温する

(カ)  新型コロナ感染が疑われた場合は、診療をせずに帰国者・接触者相談センターへの連絡を促す

 

7.      診療

(ア)  来院したら、患者には口腔内含嗽をしてもらってから診察する。含嗽材は0.2%ポピドンヨード、アルコールが含まれる洗口剤、1.5%過酸化水素水などが推奨される。商品名としてはイソジン、リステリンなど。それぞれ、ヨードやアルコールのアレルギーに注意して使用する

(イ)  X線検査が必要な場合は、デンタルよりもパノラマやCBCTを活用する

(ウ)  応急処置の場合

      診療を開始する必要がない場合は、咬合調整および投薬のみにする

      切開が必要な場合はおこなう。ただし、急性根尖性歯周炎では無理に切開する必要はないかもしれない。咬合調整と投薬だけの対応で十分な可能性は高い

      投薬が必要な場合、抗菌薬と鎮痛剤を処方する

      新型コロナ感染が疑われる場合には鎮痛剤としてNSAIDsを処方しない

      仮封脱離などには通法の根管治療に準じて対応する

(エ)  新たな根管治療の開始は、その必要性を十分に検討すること

      延期可能であれば延期する

(オ)  どうしても治療を開始する場合は通法に従っておこなう

      ラバーダム装着は必須。ラバーダムを装着したら患歯の消毒を行う

      ラバーダム装着に使用した器具をどこにどのように置くかも注意する

                              (学生の時に習ったことをより忠実に実施すべきということ)

      ラバーダムができない場合は、治療を延期する

      あるいはラバーダムを装着できる歯科医院へ紹介する

      タービンや超音波を使用する場合は、バキュームを近づけてエアロゾルが外に漏れないようにする。術者はフェイスガードを着用していること。その際、介助者を術野から遠ざけておくこと。

      超音波発生装置はなるべく使用を控える。エアロゾル発生源である

     根管洗浄時に飛沫が発生する音波洗浄あるいは超音波洗浄をやめて、Manual dynamic irrigationなどに変更する。ただし、この対応が有効か、エビデンスはありません。

(カ)  診療の継続について

      治療中の歯で、根管治療を延期できる場合は延期する

      延期できない場合は、通法通り継続する

(キ)  経過観察について

      延期できる経過観察は延期する

      延期できない場合は、通法通り行う

 

8.      これまで、わが国でも患者から衛生士への感染が報告されています。この事例から不要な治療自体やめた方がよいという判断もあるかもしれません。治療する場合は完全防護で、スタッフには患者を触らせないのがよいです。経過は以下の通りです。

(ア)  330日歯科医院受診 衛生士が処置

(イ)  その数日後に患者は発症してコロナ確認

(ウ)  48日 衛生士が発症、コロナ確認

(エ)  最初の患者も衛生士も海外渡航歴もなく、由来不明です。

 

9.      以上の対応法にはPPE(personal protective equipment)が必要です。これからの入手は極めて厳しいと思います。入手できなければ、入手できるまで対応はあきらめた方がよいでしょう。PPEとはガウン、手袋、マスク、キャップ、 エプロン、シューカバー、フェイスシールド、ゴーグルなどの個人防護具です。シューカバーは不要という意見もあります。N95のマスクがなければ治療できないような患者(処置時にエアロゾルが発生してしまう)に対して、N95のマスクを無理に入手してまで対応することは現実的とは思えません。診療体制が整っていないのですから、その場合は他院への紹介を考えるべきです。

 

10.   治療を延期するといっても、いつまでまてばよいか、現状ではわかりません。そういう意味では完全防備の体制で診療を行っていくのでもよいのかもしれません。ただし、全ての患者がコロナだと思え、です。

 

 


感染拡大防止のための受診当日問診票(見本)

 今般のCOVID-19感染症が世界に拡がり、専門家の議論を経ても全く先が見通せない状況です。

歯科医院においても、今まで以上に感染予防に注意が必要な状況となってきました。

 この状況に対応する為、当院では全ての患者様に以下の問診票にご協力いただき新型コロナウイルスの感染拡大防止に努めたいと思います。

これを機に更なる安心、安全な歯科治療の提供を行ってまいります。

何卒、ご理解ご協力のほどをよろしくお願い致します。

 

記入日   令和  年  月  日            お名前            

体温      度

 

1)基礎疾患・免疫疾患がある                はい       いいえ    

    「はい」と答えた方)

     下記の項目に当てはまるものにチェックを入れてください

        ⃞糖尿病      ⃞心血管系疾患

        ⃞高血圧      ⃞慢性呼吸器系疾患

        ⃞癌        ⃞ステロイド長期投与

        ⃞透析       ⃞免疫抑制剤服用

        ⃞その他                  

 

237.5度以上の熱がある                   はい      いいえ    

 

3)風邪に似た症状がある(喉の痛みや関節の痛みなど)     はい      いいえ    

 

4)強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある     はい      いいえ    

 

5)味覚・臭覚に異常がある                  はい      いいえ    

 

63月初以降に海外への渡航歴がある             はい      いいえ    

 

7)新型コロナウイルス感染者、

   またはその疑いがある者との接触がある         はい      いいえ    

 

8COVID-19感染症の検査を受けた、

   または陽性と診断されたことがある           はい      いいえ    

 

9)現在、花粉症である                    はい      いいえ    

 

10)妊娠している                      はい      いいえ