新型コロナウイルス(COVID-19)に関するAAE(米国歯内治療学会)の見解について

(4/3更新分は最後に追記しております。)

(4/6更新分はこちらへ)

 

AAEのウェブサイトでは、歯科医師と、歯内治療を受ける患者、それぞれに対する情報提供を行っています。

 

・歯科医師に対して

新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために、AAEのメンバーは今後3週間、緊急でない歯科治療を延期するよう推奨されています。

緊急の歯科治療とは、激しい歯の痛みやリンパ節の腫脹を伴う膿瘍、歯の感染症に伴う発熱などを指し、それに対する処置も投薬治療が第一選択のようです。

 

新型コロナウイルスが歯科臨床に与える影響について、つい先日、Amber Ather1)JOEに発表した論文がAAEに掲載されているので、要点を以下にまとめます。

 

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新型コロナウイルスは人畜共通感染症であり、現時点で全死亡率は3.4%、人体に侵入すると、冒された患者の上咽頭および唾液の分泌物に多く存在する。このウイルスに感染した患者は通常、発熱、咳、筋肉痛の臨床症状を示し、さらに胸部X線ではスリガラス状の陰影を呈する。これらの患者の80%はインフルエンザや季節性のアレルギーに似た軽度の症状しか示さない。

潜伏期間は024日の範囲であり、ほとんどの患者は軽度の症状しか発現しないため無症候性の感染者が歯科医院を受診する可能性が高い。従って全ての患者がこのウイルスに感染している可能性があると見なすべきである。

 

歯科医師は、患者の中咽頭領域への距離が極めて近い場所で治療を行い、エアロゾルも発生、多くの器具を使用するため、院内感染のリスクが高く、新型コロナウイルスの保因者になる可能性がある。

 

主な感染経路は呼吸飛沫と接触である。咳やくしゃみでは、半径2m弱の範囲でウイルスは空中浮遊する。また、プラスティックや金属などの固い表面上にある場合は、最長9日間生存可能とされている。また、感染患者の唾液と糞便の両方にウイルスが存在する。

 

患者管理と院内感染の予防としては、まず、患者の予約を取るときに、電話でスクリーニングを行い、新型コロナウイルスの流行地への渡航歴と、発熱や咳などの症状の有無を確認する。次に、患者が歯科医院に到着したら、新型コロナウイルスのスクリーニングのためのアンケートに記入をしてもらう。そして、非接触型の体温計か赤外線熱センサーを備えたカメラで患者の体温を測定する。異常が見られた患者は、他の患者から隔離し、医師にかかるよう指示する。

 

新型コロナウイルスに感染した患者に対して、緊急の歯科治療を行うことが必要となり、投薬ではコントロールできない歯槽骨骨折や歯性蜂窩織炎などの患者に対しては、保護着などを着用した上でCDCのガイドラインに沿った対処をするが、術前に、0.2%のポピドンヨードでの含嗽が、唾液中のコロナウイルスを減らす可能性があることが示唆されている。また、ラバーダムを貼るときに、鼻も覆うようにつけると効果的である。

 

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・患者に対して

新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために、AAEのメンバーは今後3週間緊急の治療のみを行います。アメリカの全ての歯科医は、疾病対策予防センター(CDC)および米国歯科医師会によって定められているラバーダム、マスク、バキュームなどの感染対策手順を遵守しています。これらの通常の予防策に加えて、以下の対策を行っています。

 

    旅行歴のある患者のスクリーニングを行う。

    感染の兆候と症状について問診を行う。

    新型コロナウイルスのスクリーニングのためのアンケートに記入してもらう。

    来院時には、全てのスタッフ、患者が手洗いとアルコール消毒を行う。

    ガウン、手袋、顔面シールド、およびゴーグルを使用して、完全な接触と呼吸の予防策を行う

    顔に手を近づけない、表面の接触を制限する。

    ドアノブ、トイレ、椅子、フロントデスクなどの公共エリアも頻繁な清掃と消毒を行う。

 

さらに、口腔の健康を維持し、感染の可能性を防ぐために、患者に対して、次のようなアドバイスが載っています。

 

    ブラッシングとフロスの前後に、手を洗ってください。

    12回歯磨きをして、舌をきれいにすることを忘れないでください。

    歯ブラシは使用後、水ですすぎ、きちんと乾燥するように、立てて保管します。

 

 1)    Amber A, et al. Coronavirus Disease 19 (COVID-19): Implications for Clinical Dental Care. J Endod. 2020:46(5).

 


※41日付で、歯科医師向けの情報が更新されましたのでお知らせします。



 

歯内療法専門医は、歯科の中でも緊急性の高い治療を担う分野であるため、歯内療法専門医を緊急医療提供者として承認し、N95マスクと個人用保護具(PPE)を優先的に配布してほしい、という要請を、AAEが各州の知事と保健局に行ったようです。

 

要請文書の要約は以下の通りです。

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歯内療法専門医は、

1.    緊急で治療をしないと命に関わる可能性のある治療を行い、

2.    それは高エアロゾル環境で行われる。

3.    また、その治療を行うことは結果的に医療及び病院の救急部門の負担を軽減させることができるため、

緊急医療提供者として承認してほしい。

 

例えば、2007年にはボルティモアで12歳の少年が大臼歯の感染根管治療が行われず脳にまで膿瘍が広がった結果死亡し、2011年にも未処置の歯の感染症で24歳の患者が死亡した。2017年には、鎮痛薬の服用のみで適切な治療がなされなかった26歳の患者が死亡した。

このように歯内治療は適切に治療されないと生命を驚かす緊急事態になることを理解することが重要である。

 

歯内治療は、未処置の歯の崩壊の結果として必要になる傾向があり、それは、激しい痛みや膿瘍を伴うことが多い。歯内治療には非外科的療法と外科的療法があるが、どちらも高速切削器具を使用するため、高エアロゾルの発生は避けられない。

2016年に救急外来を受診した歯科の患者は220万人であり、14秒に1人の計算になる。その約80%は虫歯と膿瘍で歯内療法専門医が治療する分野である。

 

したがって、歯内療法専門医は歯科の緊急事態の患者の窓口としての役割を担う必要があり、その結果、救急病院を受診する患者数の減少にも貢献できる。

ゆえに、歯内療法専門医が、N95マスクやPPEの配布が不可欠な救急医療提供者として承認されることが重要である。

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※当グループのメンバー竹内美緒先生による翻訳です。修正すべき点などありましたら、ご連絡頂ければと存じます。